センシンロボティクスでは「ロボティクスが実現する豊かな社会」をテーマに年間を通じたウェブセミナーを開催しています。

第3回は慶応義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム 副代表 南 政樹 先生をお招きし、ドローン前提社会の実現に向けたをテーマにトークセッションを行いました。

ドローン前提社会、と提唱し始めて5年ほど経ちましたが、まだまだ道半ば。

一方で手ごたえもあると、南先生は語ります。

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以下URLよりオンデマンドをご覧いただけます。
http://ondemand.seminar.vcube.com/ondemand/os/dfa2e4c5962b615215ef79e558490730cbf3246e

ドローン前提社会とは?

ドローン前提社会とは、「いつ・どこでも・誰でもドローンを利用できる社会」を指します。ドローンは空はもちろん、陸上を走るもの、水上、水中も含める。自律移動体すべてをドローンと捉えています。

社会受容性の形成に向けて ~ドローンでよかったユースケース~

童話の「北風と太陽」のように、自らドローンを使いたくなるような状況や環境になってくると、みんながおのずと使ってくれる。自動車はその良い例だ、と南先生は語ります。

「自動車が登場した頃、ドイツやフランスでは車と馬車が交わらないように、自動車の専用道路を作ってしまって自動車の性能をいかんなく発揮できるように整備を行いました。物流産業へと発展していきました。
これがドローン前提社会の一つのキーワードになると考えています。ツールのいいところ、悪いところはそれぞれありますが、それをうまく回避するような全体的な仕組みがあれば全体がうまく回っていくと考えています。」

また、社会受容性を醸造するためにはリスク、社会生産性、利便性に対するバランスが重要であると語りました。
最初からルールでしっかり縛るよりも緩やかな合意(rough consensus)形成によってルールを整備していき、ビジネスを作っていくという方法です。

一方で、センシンロボティクスのお客様は石油や鉄鋼など、危険地帯での業務を行う方が中心です。「いかに安全に業務を遂行するか」を最も重要と考えるお客様に対して、まずはやってみませんか?というご提案は現実的に難しいのが現状です。

そこで吉井は2つポイントがあると考える、と述べました。

1つは、完全にコントロールされていて、万が一墜落してもリスクが少ない環境下で効果を検証してみること。

もう1つは、リスクを考慮したうえでそれでもメリットがある分野から取り組んでいくこと。リスクと天秤にかけた時に圧倒的に効果があるユースケースが必要です。広大な場所、危険地帯をドローンに代替させた時の生産性の違いがあり、そういったメリットが提示できるとドローンの利活用を検討してもらえるのではないでしょうか。

産業化アーキテクチャ ~ルールと可用性~

内閣府が提唱するSociety 5.0は、「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会」と定義されています。

しかしその一方で、さまざまなステークホルダーが相互にリアルタイムで連携する複雑なシステムや、ドローンのように機械が制御するものと人が判断するべき領域との整理を、安全性や信頼性を確保しながらどう実現していくかという課題もあります。

そんな新しい世界で必要となるのが、複雑化したシステム全体の見取り図となり、新たな時代のガバナンスやルールを定義する「産業化アーキテクチャ」です。

ここでは「ルールと可用性」についてディスカッションが行われました。
産業振興を考えるうえでルールの策定は不可欠です。しかし、ルールをやみくもに厳しくするとできることが少なくなってくる。産業振興とルールのバランス大事だ、と南先生は語ります。

産業化アーキテクチャを考えていくと、問題点を見つけた時に共通の見取り図になる、見取り図が共有できているとコミュニケーションコストが下げられるし、それを政府と共有すれば課題に対する議論ができるようになります。

吉井は「いかに今の業界がアーキテクチャ化されていないかを実感する。関心を持って問い合わせた取り組みが実は研究段階であったり、すばらしい機能を持った海外製ドローンも日本では電波法の兼ね合いで運用できなかったり、といった課題に直面します。自分たちの取り組んでいる領域を構造的に理解してプレイヤーが各々ビジネスをやっていくという状況になると、ビジネスがもっと加速できると思う。」と語りました。

サイバーフィジカルセキュリティ  ~情報漏えいから破壊行為まで~

今までのサイバーセキュリティは、コンピューターウイルスなどを使ったデータの乗っ取りなどでしたが、今はデータ乗っ取り・改ざんに加えて、機械が操作されてしまい物理的に人に攻撃されてしまう可能性があります。
ここでは「サイバーフィジカル」のセキュリティについて議論が行われました。

サイバーフィジカルな社会の中では、ドローンに限らず世の中に存在するIoTに対して、物理的なトラブル、サイバー空間で起こるトラブルにどんどん対応していくことが求められます。

社会受容性が形成される中でセキュリティの話は避けて通れません。どちらか一方だけが突出していても成り立たちません。それを取り持つのが産業化アーキテクチャです。
構造を理解するための見取り図があり、利便性と安全性を総合的に考える必要がある、と南先生は語ります。

また、技術の発展も重要であると語ります。

「例えばサイバーセキュリティに取り組んでいる企業や人が、PCと同じくらいドローンの数が増えてこればセキュリティをドローンに実装といった発展につながっていく可能性があります。

例えば、機体登録のように、この人が本当にその人か証明することは難しいですが、ある程度のオーディットは可能になります。他のところでできている仕組みをドローンに取り込んでいけばセキュリティは担保できるようになってくるのではないかと考えています。
コンピューターシステムの安全性が担保できてくると、フィジカルの安全性も担保できるようになってくるというのが、サイバーフィジカルセキュリティの特徴だと思っているので、たくさん知見を積みあげていきたいです。」

最後はドローンベンダーでもないユーザーでもない第三者が、産業アーキテクチャの一員として参入できると今後のドローン産業の発展に不可欠になるのではと語り、セミナーを終えました。

 

ドローン前提社会はまだまだ道半ば、と冒頭に話していましたが、こうやって議論を進めていると、決して遠い話ではないように思えます。ドローンが多くの人々に親しまれ、世の中に浸透していく未来は、そう遠くないのかもしれません。