センシンロボティクスはTably株式会社 及川卓也氏に、アドバイザーとしてご支援いただいています。

2021年秋にENEOSホールディングスと共同で開設した、ドローン実証フィールド「ENEOSカワサキラボ」も、及川さんにぜひご覧に入れたく、2022年春にご招待しました。

このレポートは前編と後編で、及川さんと弊社社員との現地での対談をお届けします。前編では、ドローン実証フィールド「ENEOSカワサキラボ」へ、及川さんが視察に訪れたときのレポートをお届けします。

 

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ゲスト
及川卓也/Tably株式会社 代表取締役

外資系IT企業3社にて、ソフトウェアエンジニア、プロダクトマネージャー、エンジニアリングマネージャーとして勤務する。その後、スタートアップを経て、独立。20191月、テクノロジーにより企業や社会の変革を支援するTably株式会社を設立。著書『ソフトウェア・ファースト~あらゆるビジネスを一変させる最強戦略~』(日経BP)、『プロダクトマネジメントのすべて』(翔泳社)
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話し手
高橋 和也/株式会社センシンロボティクス サービスクオリティ Director
システム開発会社、ウェブ制作会社などを経て、2009年に株式会社リアルワールドに入社。エンジニアの統括責任者を務めマザーズ上場を経験。2017年8月よりセンシンロボティクスに入社し、開発部門を立ち上げ初期プロダクトの開発やマネジメントを担当。
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==目次==
1. 「ENEOSカワサキラボ」のご案内
2. フライトデモを披露
3. 業務自動化クラウドソリューションの全体像
4. AIを活用した壁面点検アプリケーションの紹介
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1. 「ENEOSカワサキラボ」のご案内

高橋 :お越しいただき、ありがとうございます。まずは、ENEOSカワサキラボをご案内します。

及川さん:よろしくお願いします。

高橋:私たちセンシンロボティクスは、ドローンを使ってインフラ点検などを自動で行うシステムを開発、提供しています。
社名に「ロボティクス」とつくので、ハードウェアメーカーだと思われることもあるのですが、システムソリューション開発を生業にしている会社です。
このENEOSカワサキラボは、ドローンを自由に飛ばせる開発テスト環境として、2021年にENEOSホールディングスさんと共同で開設しました。もともとは、ENEOS川崎事業所というプラントとして、2000年までは稼働していました。

及川さん:いまはこの施設は動いていないのですか?

高橋:はい。一部の施設を除いて、ほとんど停止しています。なので、配管やタンクの周りをどう飛ばすかといったテストをできる、うってつけの場所なんです。ほかにも、例えば屋内ではGPSが届かない場所でのドローンの自律飛行テストや、敷地内の道路ではUGVの自律走行テストなどいろいろ。開発者にはとても魅力的なフィールドです

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タンク設備

及川さん:すごく広いですよね。どれくらいだろう。

高橋:実証フィールドだけだと東京ドームの中にすっぽり入るくらいだと思います。
※川崎事業所全体の敷地面積は289,000m2で、ドローンの実証フィールドとしては約42,000m2の敷地を使用

及川さん:じゃあ、この施設内でやり尽くしていないテストパターンなんかも、まだたくさんある感じですか?

高橋:はい。私たちのソリューションは、点検など作業の自動化はもちろん、取得データの機械学習を活用した解析などもあります。まだまだ多くのテストをやっていきたいですね。

及川さん:いいですね。

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高橋:こちらが、「SENSYN Drone Hub(センシン ドローンハブ)(以下「Drone Hub」)」というシステムです。ドローンポートとドローン、制御ソフトウェア・業務アプリケーションが一体になっており、離着陸、充電、データ転送がすべて自動で行えます。
機体はIP54規格で、防水防塵性が高いので、雨が降っても故障することなく、ミッションを遂行できます。
カメラは2台、サーマルカメラと可視光カメラを搭載可能で、可視光は取り替えも可能なので、点検の細かい撮影ならズームカメラ、測量など高解像度が必要な現場では高画素カメラなど、使い分けています。
LTE通信対応で、飛行距離が非常に長いのも特徴です。飛行中の速度や高度などの情報と、映像データも転送が可能です。

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SENSYN Drone Hub

及川さん:データ転送は、有線のほうが速くないですか?

高橋:有線でもできる仕様にはなっていますが、私たちは無人化、省人化を目指しているので、できるだけ無線環境を使いたいと考えています。

及川さん:なるほどなるほど。分かりました。

高橋:ドローンポートには充電機能があります。ポート側のパットに、機体が接触することで、充電が開始されます。フル充電で、ホバリングが25分できます。
自動着陸には、GPSと赤外線センサーを使っています。着陸の位置が少しずれた場合には、ドローンポートの蓋が閉まるときに、物理的に押すことで調整しています。

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SENSYN Drone Hub」 開閉のようす

及川さん:それって少なくとも、ドローンポートの面内に着陸できる精度で制御できてる、ということですよね。

高橋:おっしゃる通りです。いまくらい(風速7m/s以上)の風だと、着陸時に機体が流されますが、ずれが大きいと機体が判断した場合は、無理に着陸しないで、一度また高度を上げてリトライします。
さらに、バッテリー残量が一定を下回った場合は、フェールセーフといって、予め設定しておいた緊急着陸地点に自動着陸する仕組みです。

及川さん:正確な位置に着陸できない、主要因は風ですか?

高橋:風ですね。基本的に無人運用を前提としているので、現地の風の状況を、遠隔でも把握できなくちゃいけません。そこで、あちらに気象計を設置しています。

及川さん:おお、なるほど。

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気象計

高橋:この気象計は、主に風速、日射量、雨量、気温など を計測しています。設定以上の風や雨の場合は、たとえ外部から飛行指示を出しても、離陸しないように設定されています。

及川さん:ってことは、Drone Hubは常に、この気象計とセットで動くものになっている。

高橋:はい。ドローンポートと機体と、気象計と、こちらの隣にあるネットワークカメラも、セットになっています。

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このネットワークカメラは、30倍ズームできて、離陸前にドローンポートの周辺に人間や有人ヘリコプターが接近していないか、ドローンのプロペラなどに外部損傷がないか、なども確認できます。

 

2. フライトデモを披露

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高橋:では、実際にドローンを飛ばしてみましょう。私たちは、「SENSYN CORE」というデータ分析とロボット制御のプラットフォームを開発していて、このなかの「Pilot」という機能で、ドローンを自動飛行させています。

「Pilot」は、緯度経度と高度でドローンの飛行経路計画を作成し、その通りに自動飛行させるアプリです。フライト日時予約、撮影ポイントの設定、一定間隔で撮影するといったアクション設定も行えます。

また、飛行中の映像確認には「Monitor」、飛行終了後に撮影したデータを管理するには「Datastore」があります。今日はこの3つの機能を使っています。

monitorキャプ①「Monitor」

datastoreキャプ0412①「Datastore」

及川さん:A地点からB地点へ移動するときの速度や、ある地点で何秒ホバリングするかなども、設定できるのですか?

高橋:はい、可能です。

及川さん:ドローンポートに自動着陸するときの制御は、何でやってるんですか?GPSだけ?

高橋: GPSは、精度の高いRTKを使っているのと、あとは赤外線センサーも使って着陸位置を判別しやすいように工夫しています。なので、夜間も着陸できるんです。

及川さん:おお、そうか。画像に頼っていないから。

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及川さん結構風が強い中でも、安定して飛べるんですね。マニュアル飛行だと大変そうですが、プロパイロットのような職人的な操縦を、ソフトウェアがしているわけですよね。

高橋:はい、そうです。点検ではカメラと対象物の距離も非常に重要なので、自動飛行はとても有用です。
もう1つ補足すると、自動で航行させると、毎回同じデータを取得できます。人だとやっぱりばらつきが出てしまうので。

及川さん:確かに。独自性を排除した、機械的なオペレーションが大事になるのですね。
同じ人が操縦したとしても、毎回同じ操作ができるとは限らないし、そもそも操縦者が変わったら、データが全然違ってしまいますしね。

高橋:こちらが「Datastore」というデータ管理機能です。画像の位置情報を確認でき、映像を見て異常があったらキャプチャしてマーキングしたり、コメントを書き込んだりもできます。

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及川さん:でも、何度も定期点検するなら、過去データと比較して今回はヒビがある、みたいな差異を自動抽出したり、自動マーキングまでやれたら素敵じゃないですか?

高橋:自動抽出までではないですが、比較はできます。自動マーキングまでとなるとAIですね。

及川さん:ですね。

高橋:それはまた別のアプリケーションとして、Datastoreに反映させるなど、別の方法を用いています。
SENSYN COREの全体像や、アプリケーションの関係性などの説明は、室内に移動してやりましょうか。

及川さん:ありがとうございました。すごい面白かったです。

 

3. 業務自動化クラウドソリューションの全体像

ドローンショーケース
ENEOSカワサキラボ」会議室

高橋:「業務自動化クラウドソリューション」は、3つのレイヤーから成り立っています。一番上の「SENSYN Apps」は、業務に特化したウェブアプリケーションで、ソーラーパネル点検、石油タンク点検など、さまざまな種類があります。
一番下は、デバイスです。多様なデバイスとの連携は強みの1つで、お客さまにはデバイスも含めてパッケージで提供しています。
真ん中が、「SENSYN CORE」というプラットフォームです。先ほど見ていただいた「Pilot」「Monitor」「Datastore」は、このプラットフォームの各機能です。上の業務アプリは、これらの機能を組み合わせて作っています

業務自動化アプリケーション

 

例えば、風力発電の風車点検では立体的な飛行ルートを作る必要があるのですが、手動では難しいルート作成を「Pilot」の機能を使って構築し、専用のUIを作って、ウェブアプリケーションとして提供ています。

風力発電設備ブレード点検システム-1

撮影した画像の管理は、「Datastore」でもできますが、風車には3つブレード(羽)があるので、ブレード単位で管理したいという要望があります。その場合は、ブレード単位で管理できるよう専用のUIを用意して、裏側ではDatastoreのAPIを使って見せ方を変えてしまうのです。

5ブレード画面

さらに、AIを使って撮影した画像から異常を検知し、その結果も画面に反映するところまでやっています。UIだけではなくAPIも提供することで、様々なウェブアプリケーションの開発を実現しています。

また、私たちのソリューションは、ハードウェアは好きなものを選んで使えます。Windowsのドライバのようなものを用意していて、そのドライバーを介して制御する感じです。

及川さん:ドライバーみたいなもので対応しているとはいえ、ドローンも空を飛ぶのか、陸を走るのか、水中をいくのかで全然違いますよね。
パソコンのOSとかだと、汎用的にいろんなものにつなげられるようにしつつ、個別のデバイスドライバーを1から作るのではなくするような、アーキテクチャー的な工夫があったりしますが。

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高橋:確かに、四足歩行ロボットや水中ドローンになると、あまり汎用的ではなくなるのですが、空を飛ぶドローンはメーカーが変わってSDKが全く異なっていても、フライトコントローラーなどコアな部分は、いくつかのパターンがあるので、ベースになるものを用意して微調整したりしています
ハードウェアは色々と差し替え可能な形で、ソリューションを提供しているのが特徴なので、今後も工夫していきたいですね。

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4. AIを活用した壁面点検アプリケーションの紹介

高橋:業務アプリケーションとしては、壁面点検アプリケーションを開発中です。
街中にあるビルは、申請も必要だしリスクも高いので、いまはプロのパイロットがマニュアルで撮影しています。報告書作成者は、膨大な撮影データから、壁面の割れや浮きなどが写った画像を選定して、報告書に貼り付けなくてはなりません。
可視光カメラと赤外線カメラを搭載して、1ヶ所につき2枚の画像を取得するので、1回のビル撮影で2000枚もある画像を、人が目で見て異常を探すという、途方もない作業をしていました。そこで開発したのが、AIを使って従来よりも効率的に報告書作成をできる、壁面点検アプリケーションです。緯度経度情報を使ってある程度の撮影位置を振り分けて、設計図上に画像を上げたときに機械学習を走らせて、“異常がありそうな場所”を表示することで、報告書作成者をサポートできるようにしました。

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及川さん:従来の労力と比べて、どれくらい短縮されたのですか?

高橋:現在開発中ですが、作業項目の60%削減を目指しています

及川さん異常判定の確らしさを可視化しておいて、最終的に報告書を作成するときに人が手でマーキングした部分を、教師データとして活用していく仕組みまで作れたら、人間はもっと楽になって、AIはどんどん賢くなる、もっといいサイクルになりそうですね。

高橋:おっしゃる通りで、精度はこれからもっと向上できると思います。やっぱりAIって、いきなり100%は無理じゃないですか。どうしても人の手は必要になるので、そこの設計も重要かなと思っています。

及川さん:そうですね。フォルスポジティブを許すのか、そうじゃないのかも、すごい重要な話。壁面はそうかもしれないけど、他の業務だと違うかもしれないし。ちょっと話が脱線しちゃったけど、面白いですね。分かりました。



後編は、及川さんがセンシンロボティクスにどのような感想を持たれたか、またウェブエンジニアがセンシンロボティクスで働く魅力など、“及川さんビュー”を深掘りしてお届けします!(6月22日公開予定)