センシンロボティクスはTably株式会社 及川卓也氏に、アドバイザーとしてご支援いただいています。
後編では、及川さんがセンシンロボティクスにどのような感想を持ったか、Webエンジニアがセンシンロボティクスで働く魅力など、“及川さんビュー”を深掘りしてお届けします。
※前編では、ドローン実証フィールド「ENEOSカワサキラボ」へ、及川さんをお招きした現地レポートをお届けしました。センシンロボティクスが開発中のソフトウェアについても触れています。後編と合わせて、ぜひご一読ください。
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ゲスト
及川卓也/Tably株式会社 代表取締役
外資系IT企業3社にて、ソフトウェアエンジニア、プロダクトマネージャー、エンジニアリングマネージャーとして勤務する。その後、スタートアップを経て、独立。2019年1月、テクノロジーにより企業や社会の変革を支援するTably株式会社を設立。著書『ソフトウェア・ファースト~あらゆるビジネスを一変させる最強戦略~』(日経BP)、『プロダクトマネジメントのすべて』(翔泳社)
話し手
高橋和也/株式会社センシンロボティクス サービスクオリティ Director
システム開発会社、ウェブ制作会社などを経て、2009年に株式会社リアルワールドに入社。エンジニアの統括責任者を務めマザーズ上場を経験。2017年8月よりセンシンロボティクスに入社し、開発部門を立ち上げ初期プロダクトの開発やマネジメントを担当。
山崎修平/株式会社センシンロボティクス テクノロジーGr
IT企業2社でWebエンジニアとしてサービスの開発、運用に従事。2020年1月よりセンシンロボティクスに入社し、プロダクトの開発、運用を担当。
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==目次==
「壁面点検アプリケーション」開発のリアル
“及川さんビュー”① センシンロボティクスの印象
“及川さんビュー”② Webエンジニアにとっての「3つの魅力」
“及川さんビュー”③ 従来産業のユーザー体験向上を「自分ごと」に
ハードウェアはどうあるべきか、一緒に考えていく
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「壁面点検アプリケーション」開発のリアル
及川さん:ビルなど建物の壁面点検では、ドローンに可視光カメラと赤外線カメラを搭載して、1ヶ所につき2枚の画像を取得して、両方をもとに異常を判断していくわけですよね。基本的には重ね合わせて判断していくのですか?
山崎:可視光の画像と赤外線の画像をセットにして切り替えて確認作業をしていく仕様になっています。「可視光はこんな感じ、じゃあ赤外線は?」と。
及川さん:それが現場では一般的な作業だからということですよね。素人考えだと、少しトランスペアレントにして重ねたりしたほうがよいのかなとも思うけど、そういうものではないのですね、きっと。
最終的には、報告書が自動生成されるのでしょうか?おそらく、管轄省庁が指定したフォーマットに準拠する形でアウトプットが作られるのですよね。
山崎:はい。報告書が自動生成されるというのも、1つのウリです。
山崎:壁面点検 アプリケーションは、同じような事例がなく、参考にできるものが何もなかったので大変でしたが、だからこそ「現場で使えるようにして実装する」ためには、現場でのコミュニケーションがとても重要だと再認識できました。
例えば、フロントサイドの開発では、単純なフォーム入力ではなく、図を書きながら入力していきたいということで、これも結構苦労しましたね。
及川さん:これ、何を使って書かれているのですか?
山崎:フレームワークはVueですね。マップにアイコンをつけたりなどの部分は、Leafletを使っています。最初は別の方法で作っていたのですが、ものすごく大変で。結構工夫したところかもしれないです。
及川さん:いや、そう思います。結構キビキビ動いてるし。
山崎:バックエンドの開発でも、例えばサーバーサイドではスキーマファーストでOpenAPIを使って工数削減を試みたり、機械学習の推論ではAzure Machine Learningを使って停止や起動など挙動の最適化を図ったりと、新しい取り組みをしました。
及川さん:OpenAPIのところ、APIって、基本的にはバージョンを変えないで固定したほうがいいですよね。
(前編で)ご説明いただいた「業務自動化クラウドソリューション」3つのレイヤーでは、真ん中のプラットフォームにいろいろなコンポーネントがあって、APIで上位階層の業務アプリケーションを使えるようにしていますが、さらに今回の壁面点検で開発したものを風車点検など、別の業務アプリケーションに横展開していく可能性を考えると、バージョンを変えないようにするのは結構大変なんじゃないかなと思いました。
でも一方で、OpenAPIは便利だけれども、いろんなものが乱立してできて行ってしまうといった弊害はないのかなとか。ちょっと話が脱線しちゃったけど、面白かったです。ありがとうございました。
“及川さんビュー”① センシンロボティクスの印象
高橋:ここまでご覧いただいて、及川さんのセンシンロボティクスへの印象などをお聞きしたいと思うのですが…。
及川さん:やっぱり、“Hardware Enabled SaaS”というか、ハードウェアとソフトウェアが融合されているスタートアップだと思いました。
私の著書『ソフトウェアファースト』でも触れたように、日本の従来産業はソフトウェアの可能性を理解しきれなくて、後回しにしちゃった結果、残念ながらITにおいて遅れをとってしまいました。だから、ソフトウェアをもっと理解していただきたい、という趣旨で本を刊行したのですが、じゃあソフトウェアだけでいいのかというと、そうでもありません。
ハードウェアが当たり前のように大事であり、それをいかにソフトウェアで活用するか。もしくは、ソフトウェアを使うためには、どういうハードウェアが必要か。“両利きのマネジメント”が本当は大事なんだけど、センシンロボティクスは、それをやっている企業ですよね。
だから、ハードウェアをソフトウェアでより効率的にする。あるいは、さらに精度を高めて、できなかったことをできるようにする。そういうことを考えなきゃいけないし、逆にソフトウェアを有効的に活用するために、ハードウェアはどうあるべきかも、考えていく必要があります。
我々はリアルな社会に生きています。社会における物理的な課題の解決は、非常に重要になってきていますし、繰り返しになるけど、日本の従来産業がリアルには強いけどソフトに弱かったが故に、若干遅れちゃったのを、センシンはまさに解決しようとしているのだなとも感じました。
想像はしていましたけど、実際リアルに動くものを見て、その印象はすごく強くなりましたね。
“及川さんビュー”② Webエンジニアにとっての「3つの魅力」
高橋: 当社でWebエンジニアが働く魅力や意義など、及川さんから見て思うところがあれば、ぜひ教えていただけませんか。
及川さん:3つあって、1つは「技術的な課題が高いところへの挑戦」です。
エンジニアって、基本的には難易度が高いものに挑戦していくほうが面白いし、自分の成長にもつながります。その方向性にはいくつかあって、例えば海外に出て、毎日のアクセスが億を超えるようなものを作るには、さまざまな工夫が必要になりますよね。
もう1つは、Webだけではできなかった領域に、Webの方法論を持ち込むことによって変えていくこと。まさに、「ハードウェアとソフトウェアの融合」だと思いますよ。
10年くらい前に、自宅の何かをIoTで自動化したみたいなのが流行ったけど、結構Webエンジニアが飛びつきましたよね。だから、もしかしたらかなりの数のWebエンジニアが、ハードウェアとの連携というのを、やりたいはずじゃないかな。でも日本は、その機会がまだそんなにない。日本だけじゃなくIoTって、必ずしもビジネスとして活性化していない。
でもセンシンロボティクスにおいて、 産業に根付くような領域で仕事として、ロボットやドローンと連携を図っていけるというのは、Webエンジニアにとってすごく魅力だと思いますね。
それから、もう1つは「社会への貢献」です。世のため、人のため…って言うと、かなり大きな話になってしまいますが、Webエンジニアって「誰かに喜んでもらいたい」「社会の役に立ちたい」という想いが、多少なりともあると思うのです。
センシンロボティクスが取り組んでいることは、人口減少がすでに始まった日本において、さまざまな設備や機器の老朽化が進んでいる一方でオペレーターさんがいなくなり、このままだとインフラのメンテナンスが国としてできなくなる“目の前の危機”に対して、技術の力で解決しようということなので、社会貢献の観点でも意義があります。
高橋:おっしゃる通り、海外から私たちのチームにジョインしたエンジニアたちは、災害対策に興味を持って来たメンバーも多いですね。そこにプラスしてロボティクス という 新しい技術にも取り組めるのは、当社で働く魅力だと思います。
“及川さんビュー”③ 従来産業のユーザー体験向上を「自分ごと」に
及川さん:Webエンジニアが興味を持つ要素は、結構多いと思いますよ。
センシンロボティクスのソリューションって、一種の空間地理情報じゃないですか。GIS(地理情報システム)に、いろいろな情報を乗っけていくとか、見ているだけでも楽しいし、人気がある分野ですよね。
高橋:災害時にドローンを使って現場の状況を確認する、把握する、撮影した画像データをGISと連携して、いろんな情報と一緒に一元管理する、その1つのデバイスとしてドローンを活用していくこともできます。
及川さん:さらに発展して言うと、それって「可視化技術」です。先ほどご説明いただいた壁面点検では、求められるフォーマットに則ってレポーティングする必要があったけど、そうじゃない場合ならば、3Dデータに情報を乗っけてそもそも何を可視化するべきかを検討するなど、工夫はいろいろできると思います。
AIにしても、絶対面白いですよ。いま、いろんな会社さんのお手伝いをしていて、「データはあるので、どう活かしましょうか」って言われるのですが、本当はそれって順番が間違っています 。課題が先にあり、“そのためにどういうデータを取るべきか”が、本来あるべき姿ですが、センシンロボティクスの取り組みでは確実に課題が先にあります。
例えば、人の作業を自動化するために、ドローンという手段を使って、どういうデータをどのタイミングで取るべきか、そこから考えていけるので、AIを活用するにもやり甲斐があると思いますし、もっともっと自動化する、さらには人が見つけられなかったものを見つけられる可能性もあります。
そうなると、データサイエンティストなどにも、面白い仕事になるのではないかと思いますね。ぜひ、データサイエンティストの方々にも、社会の役に立つところで能力を発揮いただきたいです。
高橋:いや、本当にそうなんですよ。技術を使って社会に貢献でき、社会課題解決につながっていくのは、すごくやりがいを感じています。
及川さん:そうですよね。あとは、大変だと思うけれども、業界でこれまでオペレーションしてきた方々のドメインに入り込まなきゃいけないじゃないですか。先ほどの3層でいう1番上の層。泥臭いところですよね。
でも、真ん中のプラットフォームだけ作っていたら、絵に描いた餅になっちゃう。センシンロボティクスは、その泥臭いところまでしっかりやられているのが、やはりすごい価値だと思いますね。
高橋:ありがとうございます。 先ほどご紹介した壁面点検 アプリケーションも、現場の方々の声をどんどん聞いて開発しましたし、今後はさらに作りこんで、このUI/UX体験を業界の標準にして展開していくことで、業界全体に貢献できればと思っています。
及川さん:ユーザー体験というと、コンシューマー向けだと思われがちですが、本来はこういった従来産業におけるユーザー体験を、もっと考えるべきで。
現場ではそうやっていません、というのはその通りかもしれないけれど、「こんな見せ方もできますよ」と伝えていって、現場の方々も過去の慣習にとらわれず「本来あるべきもの」を一緒に考えられたならば、全然違うユーザー体験や見せ方も、生まれる可能性があります。
それにセンシンロボティクスは、お客さんのパートナーというポジションで開発しているので、リアクションをめちゃめちゃもらえると思うんですよ。それにWebのシステムだから、リリース後の状況なども見えると思いますし。
だから、従来のSIerさんは“言われた通りに作って収めて終わり”でしたが、自分が作ったものがどう使われているのかを知り、もし使われていない機能などがあったとしたら“自分ごと”として悩んで、解決を図るようなマインドセットも持っていてほしいですね。
高橋:そうですね。私たちはよく、「どんなエンジニアを求めているか」と聞かれたとき、「リーダーシップを持っている人」とお伝えしています。
たとえば壁面点検アプリケーションは、5人という少数精鋭で2ヶ月で作りましたが、そのときの担当は、バックエンド、フロントエンド、インフラ、AI、ほぼ1人1つずつ、責任を持って担当していました。
組織全体でいうと、プラットフォームである「SENSYN CORE」の各機能ごとにチームがあって、ほかには AIチーム などもあり 、それぞれにテックリードとメンバーがいます。
全体的なディレクションはテックリードやマネージャーが中心に行いますが 、プロダクト ごとの開発は各チームからエンジニアが集まって担当するので 、自ら考えて提案したり行動できる、何かあったら自分から拾いに行けるエンジニアばかりです。新しく来てくれる人にも、 “自分ごと”として捉えるリーダーシップを求めたいですね。
ハードウェアはどうあるべきか、一緒に考えていく
及川さん:これから、ロボットやドローンはますます必要になります。また産業ロボット分野は、もともと日本がとても強いところです。日本の従来産業の強みを、ソフトウェアでさらに活性化していく、このユニークな取り組みをぜひやって行ってもらいたいですね。
高橋:はい。国産メーカーさんも一生懸命頑張っておられるので、私たちもソフトウェアで盛り上げていきたい、一緒に頑張っていきたいです。
及川さん:エコシステムって、結局そういうことですよね。今回、ご説明いただいた3つのレイヤーの1番上と1番下は、サードパーティがどんどん入ってくる領域ですが、そこでエコシステムができることが重要だと思います。
Microsoftも、いまはSurfaceという自社デバイスを出していますが、昔はそんなものはなくて、いろんなパソコンメーカーがいて、特にTier1と呼ばれる企業と一緒に、次世代のパソコンを研究開発して普及も進め、Windowsというプラットフォームのエコシステムが出来上がりました。
センシンロボティクスは、それと同じようなモデルができると思うので、センシンが考える“これからのAutomated Drones”に対して、ハードウェアはどうあるべきかを、メーカーさんと一緒になって考えていくというのは、すごくよいモデルではないでしょうか。